世界大会コラム(全11回): 勝者のパワーの「伝染力」—世界へ挑む日本人ラスベガスへの道4

田村さんが所属するサンライズ・トーストマスターズクラブのメンバーの皆さんと。 サンライズ・トーストマスターズクラブは、設立してまだ8年強の比較的新しいクラブだが 多様な国籍が混じるメンバーの向上心が非常に高く、アメリカ・オーストラリア・スコットランド・イギリス・カナダ・中国・インドなど多国籍のメンバーと、国際経験豊富な日本人が「最高を目指す」スピリットがひとつとなり、お互いの成長を助け合う素晴らしい文化が形成されている。

驚いた。
2015年6月22日夜、サンライズ・トーストマスターズクラブでの会合。
遅れてしまった私は、夜7時前に会場についてドアを開けたら、田村さんがスピーチをしている最中だった。
もちろんそれは珍しい光景ではない。ここはトーストマスターズクラブだから誰かがスピーチをしているのは当たり前のことだ。
何に「驚いたのか」というと
扉を開けた瞬間に伝わってきた「熱気」。
これは、毎月2回行われている通常の例会であって特別なイベントではない。
すでに満席となり、田村さんがスピーチをしている脇で空いている席をうろうろと探しながら手にしたアジェンダを見たら、他の準備スピーカーは殆どが英語のネイティブスピーカー。
田村さんの国際大会出場への気迫が、このクラブに「異様なまでの」勢いを生み出している。

再び世界へ挑戦するために今、田村さんが何をしているのか改めてお話を伺った。
「世界大会のファイナルの舞台に立ちたいというのが、2011年ではじめて世界大会に出場したときからのぼくの目標です。
この2年間で特別なトレーニングをしているということはないのですが、目標は常にぼくの頭のなかにあります。
スピーチはボディビルディングに似ているところがあって、鍛えたい筋肉ごとに、集中してトレーニングをする必要があると思っているんです。
そして、そのバランスと総合力で美しい体ができあがる。
たとえば Interactivity(日本語で言うと「双方向性」) というカテゴリー。
これはスピーチのなかで聴衆を巻き込んで、スピーカーのタクトでオーケストラのように一斉に言葉を発してもらい一体感を創出するというスピーチ手法。
これはぼくがシンシナティから帰ってきた直後に出場したトールテールスピーチコンテストで実践しました。
(ちなみに田村さんは、2013年秋のこのコンテストで全国優勝し、英語の部としては日本初となる「春秋連覇」を達成している。)

そして、2014年秋のユーモアスピーチコンテストでは
特徴のある人物描写カテゴリーにおいてイタリア人の発音を勉強しました。
(このコンテストで田村さんは観衆の大爆笑の渦に巻き込み、圧倒的な強さを見せてまた優勝と誰もが信じたが僅かながらのタイムオーバー・・・田村さんにとって、「時間」が一番の敵である。この回は元国際大会出場者、東京トーストマスターズクラブのラスカイル・ハウザーさんが優勝した。)

2013年夏、シンシナティ国際大会の後に訪れたAshevilleトーストマスターズクラブ(ノースカロライナ州)の会合にて。チャイニーズレストランで夕食を取りながら行われていた。事前にテーブルトピックスのテーマが交付されているのに関わらず、指名されると「一言も話さないで時間オーバーで終わる」アメリカ人メンバーもいる。「パブリック・スピーキング」というのは、本場アメリカ人でさえも苦手とする分野なのだろうか。

今回の2015年春 「Pinch Hitter」 のスピーチでフォーカスしたのは声の出し方。低い声、小さい声でどれだけ響く声を出せるかという声の色彩に焦点を当てました。」

世界へ挑む男がぶれずに、ただひたすら毎日の生活に落とし込んでいる事は
「ファイナルのステージに出ること」
始まりも終わりも結局そこにたどり着くようだ。
今まで世界大会のセミファイナルに進んだ日本人はもちろん他にもいるが、ファイナルの舞台を踏んだ日本人はまだいない。ファイナルに出るのならなぜ優勝を狙わないのですか?と聞いたら次の答えが返ってきた。
—– 世界大会のファイナルは、フィギュアスケートのエキシビションのようなものだと思っています。
フィギュアスケートのエキシビションは、公式競技のなかで活躍した上位入賞者選手のパフォーマンスであり
勝負の関係がないお祭り的なエンタテインメントです。
このファイナルのステージに立ってスピーチをすることができるイベントのなかで
「本当に選ばれた世界の勝者にのみ与えられる」
7分30秒の空間でスピーチをする、というところにぼくにとって特別の意味があるのです。——

ディストリクト76注釈:
この記録は、唯一の日本人セミファイナル入賞を果たした(2019年5月時点)田村直樹さんが国際大会出場を決めた2015年5月から8月までのドキュメンタリーとして、メンバーより寄稿いただいたものです。ディストリクト76としては、全国コンテストや国際大会の雰囲気を感じてもらうための資料として、転載しております。寄稿者や登場人物の感想や思いなど主観に関する表現については、あくまでそれぞれの主観であり、ディストリクト76のハウスオピニオンではないことを最初におことわりいたします。また、トーストマスターズの専門的表現が一部あります。主にトーストマスターズ会員や、トーストマスターズについて多少の知識があることを前提とした内容のため、全ての語句に説明書きはついていません。予めご了承くださいませ。なお、記事内のメンバーの所属クラブなどの情報は当時のものです。