2016年春季 日本語国際スピーチコンテスト優勝者

眞山 徳人
浦和トーストマスターズクラブ

(No English version, Japanese only)

昨年の春季大会以後、たくさんのクラブを訪れ、私のスピーチやコンテストに対する考え方をお伝えする機会を頂いています。優勝者としてクラブの例会にお邪魔するのですから、当然、こんな質問をされることも多いです。

「コンテストで優勝するにはどうしたらいいですか?」

 

 この質問への、僕なりの端的な回答は「たくさんの人に応援してもらうこと」です。

インハウスコンテストからディストリクト大会までの道のりは、3~4か月と決して短いものではありません。その間、絶えず練習会や例会でのスピーチの機会を用意してくれ、その時にビデオやカメラの機材を用意してくれ、スクリプトを分析してくれ、自分のことのように真剣に提案をしてくれる仲間の存在が、自分を支えになっていました。

しかし、「僕は優勝したいです。だから応援してください」とどんなに周りに頼んでも、それだけで応援してもらえるわけではありません。たくさんの人に応援してもらう、ということは、突き詰めれば「周囲の人が、思わず応援したくなるような人間になること」と同じことです。

プロ野球の世界で二刀流で大活躍している大谷翔平選手は、高校1年生の時に「ドラフト1位指名を8球団からもらうこと」を目標にしていました。面白いことに、その目標を達成するために必要な要素の一つに「運」という項目を挙げているのです。

さらに彼は、その運を引き寄せるために必要な行動としていくつかの項目を挙げています。「あいさつ」「そうじ」「審判への態度」「道具を大切に扱う」…私たちがつい忘れてしまいがちなことを、しっかり律して過ごしているからこそ、彼はビッグになれたのだと思います。

おそらくトーストマスターズの世界でも似たようなことが言えると私は思っています。
・会場の設営や撤収など、面倒な役割を率先してやること。
・計時係などの簡単な役割こそ、丁寧にやること。
・コメントシートは必ず直接渡すこと。その時寸評を必ず口頭で添えること。
・会った人の名前を忘れないこと。漢字も間違えないこと。
・他のトーストマスターの成長を全力で応援すること。

こういうことができる人には、「応援してください」と言うまでもなく、サポーターが集まります。

 

さて、もう一度冒頭の質問を繰り返します。
「コンテストで優勝するにはどうしたらいいですか?」
こう訊かれたとき、心の中で本当に思っていることは、実は先ほどの回答とは別のものです。

実はそれは、「優勝なんて、目指さなくていいんですよ」ということ。

何故、そんなことを思うのか。理由は2つあります。
1つ目の理由は、「トーストマスターズクラブは、失敗するための場所だから」です。
ああ・・・あの時もっとこうしていればよかった。この気持ちこそが、成長の原動力です。コンテストという機会は、本番を迎える前になんどもその「失敗」をシミュレーションできるという意味で、とっても貴重なものであることは間違いありません。
でも、裏を返せば、そうやって失敗を山ほどシミュレーションできていれば、コンテストはその時点でその役割を終えているわけで、順位は「おまけ」でしかありません。

2つ目の理由は、「スピーチの力は、もっと大きいはずだから」です。
コンテスト優勝とは何か。あえて乱暴に説明すると「たまたま選ばれた審査員が、たまたま高得点をつけた」それだけのことです。
自分自身が大阪でスピーチをした時のことを思い返すと、あの時のコンテストの順位は、「たまたま選ばれた審査員の顔ぶれが違う」だけで、十分に変わりうるものだったように思います。それくらい、どのスピーチも素晴らしかったから。

しかし、500人近くの聴衆が自分のスピーチに耳を傾け、笑ったり静まり返ったり、一緒に「カッコいい!」と叫んでくれたり…そう言った一つ一つの瞬間は、たとえ誰がどんな審査をしようと、何ら変わりはない。そのことの方が、トロフィーを得たことよりもずっと価値があるように思います。
審査員の皆さんが真剣に点数をつけてくださっていることは分かっています。それでも、何百名も聴衆がいるうちのたった数名の審査員の評価が、そのスピーチのすべて、というわけでは決してない、でしょ?せっかくなら、もっともっと、「全員に届くスピーチ」を目指しませんか。

スピーチを終えたとき、
・スピーカー自身は満足感と達成感とたくさんの拍手を得、
・その仲間たちはスピーカー以上に喜びを分かち合い、
・コンテスタントたちは共に舞台に立ったことを誇りに思い、
・オーディエンスは「遠くまで来てよかった」と心から思い、
・実行委員の方たちはそんな彼らの姿をみて、苦労が報われたと感じる。

いつかそんなスピーチが出来たらいいな。
道のりは、まだまだ遠い。これからも精進を続けたいと思います。