2018年春季 国際スピーチコンテスト

スピーチコンテスト優勝者からのメッセージ

 

2018年春季 日本語国際スピーチコンテスト優勝者

高田敏久
武蔵浦和トーストマスターズクラブ

人前で話す。
自分にとっては仕事や趣味の世界で割とよくあるシーンだったので、それほど苦痛に思ったことはありませんでした。むしろ、そこそこ上手なのではないかと勝手に思っていた時期もありました。ですがその考えは、初めてトーストマスターズの例会に参加して、ものの見事に打ち砕かれたのでした。
例会でメンバーの方たちの流暢な話し方。お題を与えられて1、2分で話をまとめる能力。「えーと」や「あのー」といった言葉を不要な言葉としてカウントする仕掛け。どれもが自分にはできない、あるいは知らなかった世界のことで、ショックを受けました。矢も盾もたまらず、即刻入会を申し込んでから、あっという間に5年間が経っていました。
初めてコンテストを見たのは、入会して1年目の春。なんと自分の所属する浦和クラブのメンバーが日本一の栄冠を手にしました。その姿を舞台の袖で見ていた自分。その時思い描いたのは、「いつか自分もあの舞台に立つ。そして一番大きいトロフィーを手にする」という姿でした。
翌年コンテストに参加。エリアを勝ち抜き臨んだディビジョンコンテストでは、2位。その時は悔しくて悔しくて夜も眠れない思いをしました。その2年後、再び参加するもまたディビジョンコンテストで2位。もう自分には無理なのではないか?そもそもコンテストに出ることになんの意味があるのだ、と自暴自棄になったこともありました。
そして2018年。3度目のコンテストに出場。その時こう考えました。今までの自分に足りなかったもの。それは、自分を信じる力。上手だとか下手だとか、いい話だとかそうでないとか、そんなことはどうでもよくて、ただひたすら聞く人に楽しんでもらいたい、喜んでもらいたい。その後で結果は必ずついてくる。それだけに集中しようと。
エリアを勝ち抜き、クラブメンバーからたくさんの評価をもらいました。ディビジョンに向けての「特訓」が始まります。コンテストに勝つとはどういう意味を持っているのかを自分に徹底的に言い聞かせ、厳しいフィードバックにくじけそうになる気持ちをこらえスピーチ原稿を磨き、見せ方を工夫し、ディビジョンコンテスト当日の朝まで練習とブラッシュアップ繰り返しました。おかげでついにディビジョンコンテストでの勝利をいただき、全国大会へと駒をすすめることができました。
今回のスピーチを作る上で一番気にかけていたことがあります。それは、日本一になるために、日本一のスピーチを作ろうと思わなかったことです。よく言われることかもしれませんが、「富士山登頂を目指すなら、エベレストを目指しなさい。そうすれば富士山は必ず登り切れる」。この言葉通り、日本一ではなく世界一のスピーチを作ろうと思ったのです。だから、世界チャンピオンのスピーチを何十回となく見ました。世界はどんなスピーチをするのだろうかと。
「タイトルが秀逸ですね」今回のスピーチでよくそう言っていただきます。ですが実はどうしてもいい言葉が思いつきませんでした。そんな中、ヒントが世界チャンピオンのスピーチの中にありました。最初は、こんなのでいいのかなという感覚もありましたが、結果は狙い通りだったのかもしれません。
こうして臨んだ全国大会。とてつもなく素晴らしい経験をいただきました。日本中から集まったコンテスタントの皆さんのスピーチはどれも秀逸な話ばかり。その中でも不思議なくらい落ち着いてコンテスト自体を楽しみながら、スピーチをやらせてもらうことができました。
「優勝は高田敬久さんです」と名前を呼ばれたとき、うれしいという感情と感謝の気持ちが交錯して何とも言えない空気感の中、ステージでトロフィーをいただいたことは忘れられない思い出です。
コンテストに参加してひとつづつ階段を上がっていく中で、本当に多くの人たちとの出会いがありました。それは言葉では表しきれないかけがえのない体験と、どれほど感謝してもしきれないくらいの人の温かさでした。
コンテストに参加するということは、自分の力量を試すことでもありながら、人間としての成長と自分自身の飛躍のチャンスでもあります。
その年の夏。自分へのご褒美としてずっと躊躇していた世界大会をシカゴへ見に行くことを決めました。初めてのアメリカ。つたない英語。新婚旅行以外したことのない海外旅行。恐る恐る「シカゴ行ってきてもいい?」妻にそう聞くと、「シカゴ?それは何県?」と聞き返されました。ですが、最後は「いくらかかってもいいから楽しんできてね」と言ってもらえました。
シカゴで体験した世界大会。それはまるで雷に打たれたようなショックでした。何もかもがスケール違い。もっと知りたい、もっと学びたいという気持ちが心の底から湧いてくるのを抑えきれません。大会中にアメリカの友人もできました。優勝させてもらったことで自分の環境が変わり大きく成長することができました。
この成功を与えてくれたトーストマスターズという組織と、コンテスト参加を勇気づけてくれた仲間と、スピーチを一緒に磨き上げてくれたクラブメンバーに、心からありがとうとあらためて伝えたい気持ちでいっぱいです。
あっ、あとシカゴ旅行を快諾してくれた妻にも。