世界大会コラム(全11回): 「共に学び、共に戦う」メンティーからのメッセージ – 世界へ挑む日本人ラスベガスへの道5

KAZさんは表参道バイリンガルトーストマスターズの会長であり、2015年-2016年はエリアディレクターを務めた。スピーチにまだ粗削りな部分もあるが、「情熱をストレートに伝える」表現力は「未来の田村さん」を思わせる貫禄がある。

東京トーストマスターズクラブでの田村さんとKAZ。 KAZ:写真中央。左から2番目、賞状を持っているのが田村さん。

KAZ—岩佐 和哉さん。 わたしが所属する東京トーストマスターズクラブに入会してきたときの彼の自己紹介はよく覚えている。 「ものすごい気合い」だったからである。
東京トーストマスターズクラブ は「日本で設立された最も古いトーストマスターズクラブ」であり2015年に60周年を迎えたが、そのレベルは非常に高く、田村さんのような国際大会出場者を過去に何度も出している。
そんな中で「僕はこのクラブにぜひとも貢献したい」と最初から情熱溢れるスピーチをしていたのがKAZだ。
実は、KAZが「田村さんのメンティーであった」ことは知らなかったが、「田村さんにメンターになってもらってから自分自身何が変わり、何が成長したのか」お話を伺った。

— なぜ田村さんをメンターとして選んだのですか?
(田村)直樹さんが世界大会2度目のチャンピオンとなったスピーチ”You decide”以来、ずっと大ファンでした。以前から憧れていており、田村さんのように「観客の心を揺さぶるスピーチ」をしたいからです。 東京クラブに入会した時、僕から熱望してお願いしました。

—田村さんにメンターになっていただいて、自分自身変わったことはありますか?
僕が直樹さんにメンタリングを受けて変わったのが2つあります。1つ目は「カイゼン」です。
今冬から春にかけて僕は、直樹さんからスピーチコンテストのスピーチについてアドバイスを頂いていました。 始めはスピーチのスクリプトを何度か読んで頂き、その文面の中で際立って良いものを伝えて下さっただけでなく
「何が不明確で理解に苦しむのか」
を「聞き手としての客観性」を最大限考慮してお伝え下さいました。
話の展開として辻褄の合わない部分、言葉の表現としてイマイチぼんやりとしている部分、 構成として不格好な部分を的確なフィードバックとして、毎回長文のメールで返事を頂きました。
このやりとりを通じて僕は「結晶のようにクリアなメッセージ」を持たずして、聞き手にはスピーカーの伝えたいことが届かない事を知りました。
誰の立場で話しているのか、どのような情景をイメージして話そうとしているのか?
僕自身で撮影したスピーチの動画を、コンテストの度に共有し
直樹さんは「伝え方(英語でいうデリバリー)」の面でも数々の「カイゼン」を僕に指し示して下さいました。
なぜ与えられた空間舞台を最大限活用しないのか?など
「常に聞き手を意識した上で」のコメントを下さり 、「カイゼン」のために何が最善かと色々と空いた時間を使っては練習する、の繰り返しでした。
残念ながら僕は2015年のエリアコンテストでは敗退してしまったのですが、この問題発見から 「カイゼンし成長する」過程はこれからのスピーチ作成においても基礎となる、ということを学びました。

2013年シンシナティ大会セミファイナル–スピーチの模様は有料で世界に発信された

2つ目の変わったこととしては「他己実現」にあります。
「他己実現」という言葉は、昨秋地域大会でのパネルディスカッションで直樹さんが発言された言葉です。
「マズローの欲求5段階説」の更に上にある6段階目として、他者の自己実現に努めたい欲求があるというのが直樹さんの持論です。
正直口だけだろう?とその時僕は正直思いました。でも実際は全く違いました。
それを感じたのはやはり、僕がスピーチコンテストに出場している間の事です。 直樹さんご自身も本業のお仕事やスピーチコンテストへの出場があるのにも関わらず、僕に熱心にメンタリングして下さっていました。それも毎度ながらの長文で・・・(笑)
僕自身のスピーチの向上だけでなく、もし僕が誰かのメンターならそこまで献身的になれるのだろうかという点でも考えさせられました。
これだけ「他者を成功に導くために粉骨砕身して下さった人」というのは、人生で出会った人の中でもほんの僅かです。
また直樹さんのアドバイスの中にも他己実現の要素が含まれていました。このアイデアが根底にあるので、アドバイス内容も指示や「こうした方が良い」という直樹さんの持つエゴによる提案は決してなく、僕自身が考え抜いた上で得られる答えをいつも尊重して下さっていました。
この経験を通し、僕は「常に考え続けることを実践の場で試す」力がつきました。
今後も直樹さんの持論「他己実現」について深く学び、また僕自身も与えられるものを持つ努力をこれからも続けていきます。
直樹さんはこれからも僕のメンターであり、僕の人生の師匠です。

ディストリクト76注釈:
この記録は、唯一の日本人セミファイナル入賞を果たした(2019年5月時点)田村直樹さんが国際大会出場を決めた2015年5月から8月までのドキュメンタリーとして、メンバーより寄稿いただいたものです。ディストリクト76としては、全国コンテストや国際大会の雰囲気を感じてもらうための資料として、転載しております。寄稿者や登場人物の感想や思いなど主観に関する表現については、あくまでそれぞれの主観であり、ディストリクト76のハウスオピニオンではないことを最初におことわりいたします。また、トーストマスターズの専門的表現が一部あります。主にトーストマスターズ会員や、トーストマスターズについて多少の知識があることを前提とした内容のため、全ての語句に説明書きはついていません。予めご了承くださいませ。なお、記事内のメンバーの所属クラブなどの情報は当時のものです。