世界大会コラム(全11回): 「静かな強者」ライバルからのメッセージ–3

2013年シンシナティ大会・セミファイナル終了後の打ち上げで。 右端が「えぼっちゃん」こと江星 建太さん。 ひとり挟んで隣が田村さん。

「悔しいけどさ。また世界大会に来ればいいことさ。」
2013年8月、セミファイナルで敗れた田村さんが発したこの言葉に衝撃を受けた人物がいる。
その名は… えぼっちゃん (江星 建太さん)。
3つのクラブに所属し、数々のクラブコンテスト優勝だけでなくディビジョン(地域)コンテスト優勝、全国コンテスト出場経験もある実力者である。
えぼっちゃんは、じつに「上品」だ。落ち着いた口調、メールでのやりとりから伝わってくる几帳面さ。
ロジカルだが強引なくらいストレートに自分の意見を伝えてくる田村さんとは対照的であり、田村さんとえぼっちゃんは ファンタジスタトーストマスターズクラブで同じクラブに所属し、また大学生が主催するスピーチコンテストで2人は同じ大会を審査することも多く、接点が多い。
今日は、そんな「身近にいる強力なライバル」 えぼっちゃんに「なぜ、田村さんはこんなに強いのか」「田村さんにいずれ勝って世界一になるために、普段何をしているのか」「全国のトーストマスターズクラブの皆さんへのメッセージ」を伺った。

田村さんとえぼっちゃん (江星さん)

「田村さんと初めてお会いした具体的なタイミングははっきりと覚えていません。恐らく、2012年の秋のテーブルトピックスコンテストの時だったと思います。どういうタイミングであれ、その時に田村さんが披露したスピーチは私を含めたスピーカーのスピーチを遥かに凌ぐものでした。トーストマスターズの場合、スピーチを構成する要素は大きくContents(内容)、Delivery(話し方)、Language(言葉遣い)の3つです。そのどれもパーフェクトに近い質に仕上げてきた田村さんに対して、只者ではない雰囲気を感じたのを今でも覚えています。なぜなのでしょうか?私が大学1年生だった2005年からトーストマスターズに入る2012年までの7年間、スピーチと言えば大学ESS(English Speaking Societyの略。大学によってはESA: English Speaking Association、QGS: Queens’ Garden Society等様々な呼び方があります)で披露されるものが全てでした。それは社会人から見れば、えげつない話題、例えば憲法問題、難民問題、教育問題、政治問題を真正面から向き合った問題解決型のスピーチが蔓延っていました。そんな中、 がちがちの社会派ありきで凝り固まった私のスピーチに対する考え方を破壊し、新たな側面を教えてくれたのが田村さんでした。
この人は聴衆の心を鷲掴みにするテクニックを有している。競技スピーカーとしてはかなり手ごわい。

発表されるスピーチが本当に美しいのです。メッセージはあるけれど、それを直接的な表現で言うのではなく物語で浮かび上がらせるテクニックに毎回圧倒されます。デリバリーもすごい。一つ一つの動きに意味があり、無駄がないのです。ただ、ステージをウロウロしているわけでないのです。ここも素晴らしいと思う面です。
私の夢はいつの日かWorld Champion of Public Speakingで勝つこと。その前にこの凄い人と対峙しなければならない。そう、私がトーストマスターズにいるのはコンテストで勝って、世界一になりたいからです。トーストマスターズに入って間もないのに、気が付けば勝手に田村さんを好敵手として見なしておりました。
自分も「世界に挑むために」 パブリック・スピーキングに接する機会は昨年の全国春季大会に出場して以降、意識して増やしています。
しかしながら、田村さんに勝ちたいということを目的に特別にしていることはありません。一つだけ言えば落語を生で聞くことは続けています。落語にはトーストマスターズのマニュアルに書いてあることが具現化されている事例が多いです。お金を支払う必要はありますが、払うお金以上に得られるものは大きいです。最後に論評の機会をできるだけ多くもつこと。私が人のスピーチを論評する場合と、誰かに私のスピーチを論評してもらう場をもつことを指します。論評を通じて、パブリック・スピーキングのスキルが格段に上がると思います。
繰り返しになりますが、田村さんはスピーチの世界に全く異なる次元があることを教えてくれた方です。そのような素晴らしい方にトーストマスターズという舞台で出会えたことは光栄です。そして、いつの日か世界大会で雌雄を決することができる日を楽しみにしています。」

ディストリクト76注釈:
この記録は、唯一の日本人セミファイナル入賞を果たした(2019年5月時点)田村直樹さんが国際大会出場を決めた2015年5月から8月までのドキュメンタリーとして、メンバーより寄稿いただいたものです。ディストリクト76としては、全国コンテストや国際大会の雰囲気を感じてもらうための資料として、転載しております。寄稿者や登場人物の感想や思いなど主観に関する表現については、あくまでそれぞれの主観であり、ディストリクト76のハウスオピニオンではないことを最初におことわりいたします。また、トーストマスターズの専門的表現が一部あります。主にトーストマスターズ会員や、トーストマスターズについて多少の知識があることを前提とした内容のため、全ての語句に説明書きはついていません。予めご了承くださいませ。なお、記事内のメンバーの所属クラブなどの情報は当時のものです。